日本の女は、不実だと俺は考える。
 いや日本に限らず女は不実なものだ。そして女に限らず男も、ある意味では男の方が不実だろう。
 だがこの国は特に、そうではないかと考える。
 それが全くの偏見なのは分かっている。…………かつて手酷く裏切られた経験がそう思わせているだけなのだ。
 分かってはいるが、それでも苦手だった。いっそ憎んでいると言っても良い程だろう。
 家の為、祖父の命で祖父の眼鏡に適い選ばれた女と結婚する事に異論は無い。
 しかし、その相手がこの国の女であるならば、それは自分にとって拷問でしかない。

 ――――――今度は、いつ裏切られるか。

 そんな事を考えながら結婚生活を送るというのは、いっそ恐怖だ。




「…………う」

 ぎしり、と軋む音に目が覚めた。
 目を覚ますと其処は自室の天井ではない。
 かつては華やかな絵が描かれていたのであろう、今は色褪せた天井を見上げてラビは一瞬混乱して、ああ、と思いついた。
 随分と堅い寝台だ。音の原因はこれか、と見やる。慣れない寝台に痛む身体を伸ばしてラビは足を下ろす。
 申し訳程度に掛かっている天蓋の布を跳ね上げると、中央に鎮座する長椅子に白い布の塊があり、そこから青い頭が微かに覗いていた。
 
「…………何さ、ここ?」

 降りて見やれば寝台も、そしてダグが眠っている長椅子も赤い。
 しかしながら床も天井も埃塗れとは言わないがけして手入れが行き届いているようでもない。
 状況説明をさせようとダグから毛布を剥ぎ取りながらラビは素早く視線を巡らせ、毛布を奪われて尚目覚めないダグの頭に拳を一つ落とした。

「った!! あ、若旦那おはようございます。調子はどうですか?」
「うん、まずまずってとこさ。で、ダグ、此処は?」
「料理屋の二階です。古妓楼を改装した店で、此処は酔って寝た客を止める部屋だそうです」
「ああ、成程ね」
 
 道理でこんな色合いな訳だ。
 妓楼であった頃はダグが寝ていた長椅子や、つい先程まで自分の寝ていた寝台で毎晩客と娼妓が何をしていたやら――――――。
 
「しかし若旦那、どうなさったんですか? 人ごみに酔った、なんて訳ないですよね?」
「あー、うんまぁ…………寝不足、かな? いやぁ最近夜更かししすぎたさ〜」

 あの時。
 自分は酷く動揺したのだ。
 余りに記憶の中の、けして触れられたくない類の記憶の中のまさに中心部に位置するようなものを見せ付けられてしまって。
 おどけて答えた言葉にしかしダグは納得していないらしく、伺うような眼差しで見詰めて来る。
 ブックマン一族ほどでは無いにしても優れた洞察力を持つダグの事だ。何かある事など感づいているのだろう。
 ははは、としばらく空笑いしながらもタグの冷ややかな眼差しに晒され、ラビは迷った。
 無理に笑う事をやめ、視線を床に落とす。

「…………ダグ」
「はい、何でしょう」

 得たり、と短い返事が返る。

「ちょっと、調べて欲しい事があるんさ」  
「畏まりました」

 ――――――今自分はどんな顔をしているのだろう
 きっと鏡が合ったなら大層情けない顔をした男が映っているのだろうと、思った。


<続>



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