ガシャンッ!!
「!?」
突然響いた破壊音と、数人の怒鳴り声に僕らはばっ、と顔を上げた。
見れば店の真ん中辺りで屈強な感じの男の人達が円を組んでいて、どうやらその中に誰かいるらしい。
只ならぬ様子に店内は騒然となり、僕らも慌てて駆け寄る。
「ちょっ…………」
止めようにも間に合わず、一人が拳を振り上げた瞬間――――――
「うげっ!?」
「!」
鞘に収まったままの剣が、その男の人の喉仏の辺りを突いた。
蛙が踏み潰されたような声を上げてその人は喉を抑えてのた打ち回る。
「てめぇっ!!」
いきり立った他の人が其々に拳や武器を振り上げた――――――その瞬間。
目にも留まらぬ速さで、黒い光が走った。
いや、光じゃない。あれは…………黒い、剣だ。
急所を一突きされたのだろう、全員がその場に蹲り、あるいは倒れた。
「ふん…………威勢がいいだけの雑魚か。突っかかって来た割りには根性たりねーな」
彼らが倒れた事により姿が現れた、囲まれていたのだろうその人は、そう言った。
「――――――っ!!」
漆黒の瞳。漆黒の髪。漆黒の刃。
苛烈な光を湛えた眼差し。
そしてこれまで出会ってきたどんな人間よりも整った造作をした、一人の剣士。
そんな彼が、近寄りかけて足を止めその場で凍り付いた僕らを一瞥してから、興味を失ったように店から出て行く。
店は水を打ったように静まり返った。
「…………あれ、今の…………「ヤマト」の神田ユウ…………?」
たっぷり十秒くらい置いてから、僕の斜め前にいたラビが、掠れた声で呟いた。
「そう、ね。最近見なかったけれど…………」
リナリーが、倒れ伏した人々の様子を見ながら頷く。
「…………有名人、なんですか?」
「んー、まぁ…………」
「あいつはただの裏切り者さ。臆病者かも知れねぇけどな」
傍のテーブルでお酒を飲んでいた男の人が吐き捨てた。
「剣の腕は中々のもんだが、俺はあんな奴ぁ認めねぇ」
「裏切り者…………?」
「ラビ、回復してあげて」
「了解。…………変わったギルドでさ、「ヤマト」ってのは。全員が東の国の出で、ブシドーだけで組んでたんさ。…………でもちょっと前に、事件があって」
「事件」
ラビがキュアを施していきながら話し続ける。
「そ。一階の真ん中辺りに、ボス格の魔物が降りて来たんさ。…………で、手傷を負ってたりとか、初心者ばっかりのギルドが結構いて。ヤマトはそいつらを助ける為に、時間稼ぎで囮になって、魔物に立ち向かったんさ」
「そ、それで…………彼らは…………」
「全滅した」
よいしょ、と治療を終えたラビが立ち上がった。
「ん、あとは放っとけば目ぇ醒ますだろ。…………ま、一人生き残った訳だから、全滅ってのもおかしな言い方かもな。で、生き残ったのがあの神田ユウって訳」
「…………凄い、ですね。そんな強い魔物相手に生き残れたなんて」
「アホか坊主、勘違いすんな」
またさっきの男の人がきつい物言いで僕に向かって話し始めた。
「ヤマトの奴らは負けたんだよ、まぁそりゃしょうがねぇや、名誉の戦死って奴だ。ヤマトの連中を嬲り殺して満足したから魔物共は帰ってったんだから
な。…………でも、奴だけ生き残った。おかしいだろ? 他の奴らは全員死んだんだ。五体を引き裂かれて、全員がバラバラで何処が誰のパーツか分からなくな
るまでにされてな」
その光景を想像してしまった僕は思わず口許を抑えた。
「だけど奴は確かに傷を負っちゃいたが腕も首も足もちゃんとついてやがる。…………おかしいだろ、どう考えても。一人でだけ命が助かるなんて」
「…………貴方は彼に死ぬべきだったとでも言いたいんですか?」
いい加減、ちょっと腹が立っていた。
正直この人の言う事は聞くに堪えない。
「…………味方を裏切って一人生き残る位なら、死んだ方がいいんじゃねぇのか」
その言葉に、そしてその言葉を否定しないその周囲の人達に、僕は心がざわり、と揺れるのを感じていた。
思わず怒鳴りそうになった所に、ラビがポン、と僕の肩を叩く。
「…………争うのは得策じゃないさ。…………な、収めろ」
その言葉に握った拳を解いた。腑に落ちず、熱い塊が胃の中にあるみたいな怒りを覚えたまま。
「…………行こ?」
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