斬っても斬っても沸いてくる雑魚共の所為で肝心の敵の前に出れない。
――――――血の匂いに惹かれて来る奴ら。
存在は知っていた、だから一気にケリを付けるつもりだったのに。
よりによって、先客がこれまた輪を掛けた雑魚の冒険者共だった!!
見捨てたって良かった、雑魚に殺されるような弱い奴ら、無視して放っておいても良かった、
だが、その瞬間に浮かんだのは魔物に惨殺された師らの姿。
――――――これで俺が散ったら、笑い話にもなりゃしねぇ。
致命的な傷なんぞ受けはしないが徐々に手傷が増えてきた。
携帯していた回復薬はどっかの雑魚共に投げた。
――――――クソッ!!
舌打ちした所で状況は好転しない。
横の魔物に切りかかった瞬間、視界の端に映る最奥の獣王が再び大口を開けた!
炎が来る、防御が間に合わない!!
一瞬の逡巡に体が固まった。
目を閉じる事も無くその前に無防備に体を晒した俺は――――――
「ファイアガード!!」
聞き覚えのあるガキの声に、思わず目を見張った――――――
「ファイアガード!!」
僕の使ったその技は、辺りを覆った炎から僕らを護る!
「ま、間に合ったぁ…………」
「アレン、ナイスッ!」
乱入したその場、直ぐにキマイラが大きく口を開いていたのが目に入った。
ラビの「火だっ!」という叫びが無かったら発動できなかっただろう。
「…………お前ら、」
神田が、唖然と僕らを見た。
「キュア!」
ラビが神田に向かって回復を掛ける。
「神田、大丈夫!?」
リナリーが神田に駆け寄る。
「何しにきやがった」
「僕らも手伝います、神田!」
「馬鹿か、初心者が何言ってやがる!! とっとと逃げろ!!」
言いながら神田は尚も襲い掛かる魔物を切り捨てる!
「貴方だって危ないんでしょう!?」
「足手纏いがいなきゃ問題なかったんだよ!!」
「ちょっと、話してる場合じゃないわ!」
「っクソ!!」
神田が、奥の魔物に向かって駆け出した!
「神田っ!」
「きゃあっ!!」
「うわっ!!」
そして斬りかかろうとした神田は、
小型の魔物に襲われたラビとリナリーの悲鳴に、
――――――振り向いて。
その瞬間の隙をキマイラは逃がさず、
その鋭い鉤爪が、彼を引き裂いた――――――!!
「あっ…………ああああっ!!」
その瞬間、僕の眼にはスローモーションみたいな速度で彼が倒れ込むのが映った。
キマイラの鉤爪を彼の血が瞬時に真紅に染め上げた!
再度、奴がその鉤爪を振り上げて――――――
「お前の敵はこっちだ!!」
僕は、その前に飛び出した!!
僕のレベルじゃ太刀打ち出来ないのは分かっていた。
多分嬲り殺しにされるだけだという事も。
だけど、それでも僕は見たくなかった。神田が殺される所なんて。
護りたいんだ、ラビもリナリーも、神田も、皆――――――!!
振り上げられた鉤爪が振り下ろされた瞬間、彼とその鉤爪の間に身を滑り込ませる、
鉤爪に盾を翳した、
瞬間、
盾が輝いた!!
「な、」
容易く破られる事を想像していた盾が、キマイラの鉤爪を跳ね返した!
自分自身が一番信じられなくて、思わず目を見張る。
「オールボンテージ!!」
リナリーの凛とした声が響き渡り、蔦のような物がキマイラの頭、腕、脚…………全てに絡み付いて動きを奪う!
「超医術!!」
次いでラビの声と共に、辺りに柔らかく光が満ちる。
神田に駆け寄る手前で負った傷が、一気に癒えた!
「リナリー、ラビ!!」
「っゴメンっ!!」
「神田っ…………!」
「…………この足手纏い共が、」
――――――倒れていた神田が、その身を起こした。
「だから言ったんだろうが! あんな雑魚共に苦戦する位なら来るな!!」
「…………ごめん…………」
「ねぇ、後にして! 封じも長く持たないの!!」
「…………下がれ」
神田は手にしていた長く黒い刀を腰の鞘に戻し、腰を僅かに落とし構えを取った。
「何を、」
「しっ、アレン。見てろ」
ゆっくりとした、だけど途切れない流れるような動きで彼はその柄を握り、
「――――――、一閃!!」
――――――そして、目にも留まらぬ速度で抜刀された刀の一撃は、キマイラの首を断ち切った――――――!
ドッ…………
重い地響きと共に、断末魔すら上げずにキマイラは倒れ伏す。
「…………一撃…………?」
余りにも呆気無いその幕引きに、僕らは呆然と見やる。
刀を振って付いた血を飛ばした神田は、その刀を再び鞘に戻し、そして僕らに向き直り、
バシッ!!
「痛っ!」
「うわっ!!」
僕とラビを、殴った。
「…………身の程知らずにも程があんだよ新人共。運がいいからって調子こいてんじゃねぇ! てめぇの身や仲間も護れないのに他人の世話なんぞ焼いてる場合か!! 死にたいのか!?」
「「「…………」」」
僕もラビも、リナリーも。
何も言えなかった。
もし神田がいなかったなら、あの時、キマイラの叫び声に反応してキマイラの元に辿り着いてしまった瞬間に僕らの人生は終わっただろう。
「分かったらとっとと帰れ、お前らにはまだ早ぇんだよこの辺は。せめて下の鹿殺せる位になってから来い」
「…………はい」
神田は一人、上の階への階段へと向かった。
その背を思わず追いかけて、彼の服の裾を掴む。
無言で振り向く彼に、
「…………あの、ごめんなさい。…………僕もやっぱり少し、貴方のこと誤解してました」
「…………あ?」
「貴方は全然脆くなんて無い、強い人ですね」
「…………何の話だ?」
訝しげに神田は眉根を寄せる。
「神田。…………今すぐじゃ無くてもいいです。いつか、僕らが貴方に認めてもらえるくらい強くなれたらその時は、僕らと一緒に来てくれませんか?」
「ふざけんな。お前らが強くなるのなんて何時の話だ。大体俺だって修練を怠るつもりなんかねぇ」
あう、そう言えばそうだ。僕らだけじゃなくて彼だってこれからどんどん強くなるんだろうから平行移動じゃ意味がない!
「…………だが、」
「?」
神田は、溜息を付いて、僅かに声を小さくした。僕とは目を合わせずに、
「お前がいなかったら俺は今頃うまい具合に焼かれてお陀仏だっただろう。――――――借りは必ず返す」
そう言って、神田は僕の手を振り切った。
今度こそ、階段を上って消える。
…………あれ、今のって…………
「期待して、いいのかな?」
勿論前提として、彼に認めてもらえる、最低限「足手纏い」から卒業できてからだろうけど。
――――――きっとまた、彼とは出会えるのだろう。
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